日本の労働時間計算における年変形とは、労働基準法に基づく変形労働時間制の一種で、1年間を単位として労働時間を調整する制度を指します。1年単位の変形労働制の導入状況や労働時間の計算方法などを解説しています。
年変形労働時間制とは?
「1年単位の変形労働時間制」は、一定の期間内で週平均40時間以内に収まるように労働時間を調整できる制度です。
年変形の計算方法
労働基準法では、1週間あたりの法定労働時間は40時間なので、1年間の労働時間は以下のように計算されます。
基本的な年間労働時間の計算
(年間労働日数)×(1日の労働時間)
計算例)土日が休日(完全週休2日制)で8時間勤務の場合
1年=365日
土日が休日の場合(完全週休2日制)
365日 - (52週×2日)※土日 = 261日(年間労働日数)
261日 × 8時間 = 2,088時間(年間労働時間)
1年単位の変形労働時間の調整
例:繁閑差をつける場合の1年スケジュール
例えば、繁忙期(3月~6月)に長時間労働をし、閑散期(8月~9月)は短縮するように設定できます。
月 | 労働時間 | 備考 |
---|---|---|
1月 | 160時間(20日×8h) | 通常 |
2月 | 160時間(20日×8h) | 通常 |
3月 | 200時間(25日×8h) | 繁忙期 |
4月 | 200時間(25日×8h) | 繁忙期 |
5月 | 180時間(22.5日×8h) | やや忙しい |
6月 | 180時間(22.5日×8h) | やや忙しい |
7月 | 160時間(20日×8h) | 通常 |
8月 | 140時間(17.5日×8h) | 閑散期 |
9月 | 140時間(17.5日×8h) | 閑散期 |
10月 | 160時間(20日×8h) | 通常 |
11月 | 160時間(20日×8h) | 通常 |
12月 | 180時間(22.5日×8h) | やや忙しい |
合計 | 2,080時間 | 週平均40時間以内 |
このように、年間で労働時間を調整しながら、法定労働時間の範囲内に収めることができます。
年変形を採用するメリットとデメリット
メリット
- 繁閑に合わせて柔軟に働ける
- 時間外労働を減らせる
- 休日の確保がしやすい
デメリット
- 年間の労働時間を事前に計画する必要がある
- 繁忙期の負担が大きくなる
- 1年単位の管理が必要
年間変形労働時間制の残業時間発生パターン
パターン①計画された労働時間を超えた
例)1日9時間の予定のところ、10.5時間働いた
→休憩1時間を引いた0.5時間の残業
パターン②1週間の労働時間が52時間を超えた
例)繁忙期に54時間勤務
→超えた2時間の残業
パターン③年間の総労働時間法規定上の上限(2,080時間)を超えた
例)年間で2,100時間勤務した場合
→超えた20時間の残業
残業についてのまとめ
- 年変形労働時間制では、年間の労働時間法定範囲内なら残業にはならない
- 1日の労働時間が10時間を超えた場合、超過分は残業
- 1週間の労働時間が52時間を超えた場合、超過分は残業
- 年間総労働時間上限(2,080時間)を超えた場合、超過分は残業
- 残業代は25%増(深夜や休日はさらに増額)
年変形労働時間制の休日の考え方
1年単位の変形労働時間制を適用している場合、休日は年間を通じたスケジュールに基づいて決められます。そのため、休日出勤した日が「法定休日」か「所定休日」と明確にする必要があります。
休日を明記した年間カレンダーが必ず存在します。
法定休日
会社が日曜日を法定休日と定めていた場合、日曜日に出勤すれば、割増率35%で手当がつきます。
法定外休日
法定休日とは別に、会社が独自に定める休日です。そのため、法的な補償がありません。割増率は25%になります。
従業員が会社で休日をどのように定めているか知る方法
- 就業規則
-
年間変形労働時間制を採用した場合でも、各日の始業・就業の時刻など就業規則に定める必要があります。
- 年間カレンダー
-
会社は年間変形労働時間制を採用する場合、年間カレンダーを労働基準監督署に届出する必要があります。そのため、必ず会社カレンダーが存在しています。
1年単位の変形労働時間を採用している企業の特徴
年変形労働時間を採用している企業は、季節や時期によって、業務量に差があるのが特徴です。
業界別の導入率(2020年データ)
業界 | 導入割合 |
---|---|
製造業 | 30% |
運輸・物流業 | 28% |
建設業 | 25% |
宿泊・飲食業 | 22% |
小売業 | 20% |
医療・福祉 | 18% |
教育・学習支援業 | 15% |
情報通信業 | 10%以下 |
金融・保険業 | 10%以下 |
日本における1年単位の変形労働時間制の導入企業数は、約70~75万社(全体の20%)
1年単位の変形労働時間制を導入している企業の推移(概況)
年度 | 導入割合 |
---|---|
2010年 | 約19% |
2015年 | 約21% |
2020年 | 約20% |
2023年 | 約19%(推定値) |
まとめ
1年単位の変形労働時間制は、繁忙期と閑散期の労働時間調整できる制度ですが、繁忙期の長時間労働や休日出勤の扱いなど、しっかり確保しておきたいポイントも多くあります。
「労働時間が長すぎる」「休日出勤の割増賃金が正しく支払われて割り当てられない」と感じたら、慎重に規則や会社の労使協定を確認し、必要に応じて労務担当者や労働組合に相談することが大切です。